文・Photos/榎戸優子

小道具
 舞台上のセットや背景、またそれらの道具を飾るための設備なども含めて大道具といいます。新作舞踊劇の大道具づくりは、当然のことながらゼロからのスタート。舞台美術の朝倉摂さんのイメージイラストをもとに、設計図を書くところからはじめます。『名古屋をどり』では一日にたくさんの作品が上演されるため、セットや背景をひんぱんに変えなければなりません。ですから、幕間や暗転中にすぐに組み立てられ、前後の出し物の邪魔にならないよう、パーツを細かく分けて図面を書きます。

 設計図と同時に進行するのが素材選び。古典の基本素材は木、布、紙ですが、新作舞踊劇には制約がありません。舞台美術の朝倉摂さんからは、毎年のように新しい素材が提案されるそうです。どの素材を使って、どんな加工をすればデザインどおりの舞台ができるのか、演出家、舞台美術家と大道具係のアイデア合戦です。大道具の仕事は道具を作るだけではありません。本番で背景やセットを変えたり、セリなどの仕掛けを動かすのも大切な仕事です。道具の動かし方ひとつで舞台の雰囲 気が変わってしまうこともありますから、大道具の裏方にも演技力(?)が求められるとか。『名古屋をどり』では15人の舞台裏の演技者たちがスタンバイしています。

<<昔の小道具は、紙と木、布だけで作りましたが、現在ではさまざまな材料を使って作られています。すべて手作りです。
 試作品を稽古場へ持っていき、家元や出演者に使い勝手を試してもらいます。
●『泉の姫』の小道具ウラ話
 『泉の姫』で若武者が連れている鷹の人形は2体あります。一体は若武者の肩に止まる鷹、もう一体は飛びながら敵と戦う鷹。前者はホリ・ヒロシさんの作品、後者はそれをモデルにした小道具制作者の手によるものです。
 ホリさんの作品にどこまで近づけるか、プロの腕の見せどころでした。
◆小道具ひと口メモ
木の枝...立っている木は大道具、その木の枝を折って手に持つと小道具になります。

手ぬぐい...手に持つものが小道具の基本ですが、手ぬぐいの場合は、頭にかぶるのが小道具、

実際にかぶらせるのが床山、手に持つものは衣裳の担当になっています。ややこしいですね。

雪...舞台の上に吊るした「雪籠」という目の粗い籠から降らせる紙の雪。この雪を降らせるのは

大道具の担当です。ところが、この雪が花びらになるとなぜか小道具の担当になってしまいます。

馬...2人の人間が前脚と後脚の役になる馬。この馬のかぶりものも小道具に含まれています。ち

なみに、今回の『泉の姫』で若武者がまたがっている馬も、大きいけれど小道具です。

大道具
 舞台上のセットや背景、またそれらの道具を飾るための設備なども含めて大道具といいます。新作舞踊劇の大道具づくりは、当然のことながらゼロからのスタート。舞台美術の朝倉摂さんのイメージイラストをもとに、設計図を書くところからはじめます。『名古屋をどり』では一日にたくさんの作品が上演されるため、セットや背景をひんぱんに変えなければなりません。ですから、幕間や暗転中にすぐに組み立てられ、前後の出し物の邪魔にならないよう、パーツを細かく分けて図面を書きます。

 設計図と同時に進行するのが素材選び。古典の基本素材は木、布、紙ですが、新作舞踊劇には制約がありません。舞台美術の朝倉摂さんからは、毎年のように新しい素材が提案されるそうです。どの素材を使って、どんな加工をすればデザインどおりの舞台ができるのか、演出家、舞台美術家と大道具係のアイデア合戦です。

 大道具の仕事は道具を作るだけではありません。本番で背景やセットを変えたり、セリなどの仕掛けを動かすのも大切な仕事です。道具の動かし方ひとつで舞台の雰囲気が変わってしまうこともありますから、大道具の裏方にも演技力(?)が求められるとか。『名古屋をどり』では15人の舞台裏の演技者たちがスタンバイしています。

『名古屋をどり』の大道具は4tトラックでなんと4〜5台ぶん!
 朝倉摂さん、狂言方との最終打ち合わせ。狂言方とは舞台の進行を務める舞台監督のことです。
 設計図の寸法はいまでも尺貫法を使っています。
●『泉の姫』の大道具ウラ話
 毎回、斬新な舞台を作る朝倉摂さんの今回のアイデアは「コントラ」という素材。こよりを集めて圧縮したような布(見た目はタタミイワシのようです)です。

 使われるのは泉のシーン。波模様を縫い付けた紗幕(薄い生地で作った幕)の後ろにこのコントラを吊り下げ、その後ろから照明を当てると、舞台全体がゆらぐ水の世界に包まれます。

◆大道具ひと口メモ
仕込み・ばらし...セットを含め、舞台で使う道具を準備することを「仕込み」。反対に片付

ことは「ばらし」といいます。

切り出し...板に山や木などの絵を書き、立てられるようにした道具のこと。「平物」といわれ

道具のひとつです。これに対して立体的なものを「丸物」といいます。

ボテ...木の枠に布と紙を張り、舞台上の家などの壁に使うパーツのこと。語源はおそらく「張

りぼて」から。『泉の姫』に出てくる機織小屋の壁ではパンチングボードを使い、光の美しさを演

出しています。

ドロップ...一枚の布に描いた背景のこと。バトンに吊るして上から落とすのでこう呼ばれるの

思われますが、日本舞踊の舞台でもなぜか英語です。

衣 裳
 衣裳も新作舞踊劇を観る楽しみのひとつ。古典にはないユニークなデザインの衣裳が登場します。衣裳デザインも朝倉摂さんによるもの。舞台美術と調和した衣裳のイメージを朝倉さんがイラスト化します。イラストには正面から見た形と色、柄が描かれているだけ。具体的なことは何も書かれていません。衣装係はそのイラストだけを頼りにイメージを膨らませ、生地選びから縫製までをおこないます。難しいのは色選び。照明が当たったときの色調も想像しながら、無数にある色の中からイラストに近いものを選ぶのはひと苦労です。

 日本舞踊の衣裳の基本はもちろん和服。でも新作舞踊劇の衣裳は、和服風衣裳と言ったほうがいいかもしれません。衣裳担当者いわく「新作舞踊劇の衣裳作りは、ベースの和服を崩していく作業」。たとえば、『泉の姫』の登場する泉の男の衣裳。ベースは「東絡げ」に「そばつぎ」という歌舞伎でもよく用いられる衣裳ですが、そで口が洋服のようにキュッとつぼんでいます。また、生地も洋服地を使っています。和服とは違う形や素材をうまくまとめ上げて日本舞踊の衣裳に仕立てる・・・新作舞踊劇の衣裳づくりには伝統的な技術だけでなく、クリエイティブな感覚も必要なようです。

<<これが朝倉摂さんのデザインイラスト。
 仮縫いした衣裳を稽古場にもっていき、出演者に着付けて着心地を確かめてもらいます。
<<衣裳はすべて手縫い。仕立て直しがしやすいようにということらしいですが、新作舞踊劇の衣裳はほとんどそのまま衣裳屋さんの倉庫に大切に保管されています。
●『泉の姫』の衣裳ウラ話
 この新作舞踊劇のために、若い女性ばかり5人のチームが結成されました。『泉の姫』のために作った衣裳は全部で14枚。なかでも家元扮する泉の王の衣裳は、5人総がかりで一ヶ月もかかった渾身の作。

 ジャガード織りのマントと狩衣という組み合わせが、王の威厳と品格を巧みに表現しています。

◆衣裳ひと口メモ
人形...裾や袖口など見えるところだけに布を重ねて縫い付け、重ね着をしているように見せる

法。衣裳を軽くするための方法です。関東では「うそ付き」と呼ばれています。

東絡げ(あずまからげ)...着物の左右を引っ張り上げて裾を広げた形のもの。踊るときに

着物が足にまとわりつかないように工夫した形です。『泉の姫』の泉の男・泉の精男、『吉野山』

忠信が着ています。

台付け...これは今風に言えばアップリケ。衣裳や帯びの模様を縫い付けたものです。『泉の

姫』の泉の男が着ている衣裳の波模様や『にんげんだもの』の『無常』の衣裳に付けられている

ウサギがこれです。

引き抜き...舞台の上で一瞬にして衣裳を変える方法です。引き抜きをするために上下に分かれ

た衣裳を「かぶせ」といいます。一瞬にして正体を現す変化物などで衣裳が前後に分かれる「ぶっ

返り」というのもあります。

かつら
 新作舞踊劇のかつらも舞台美術の朝倉摂さんのイラストをもとに作られます。驚いたことに、朝倉さんや家元と打ち合わせをしたかつら師が、そのイメージを他のかつら師に口頭で伝えるだけで製作開始。設計図や型紙といったものは一切なく、経験から得た勘と創造力だけで形を作っていきます。まさに職人技です。

 かつら作りの技術は、基本的には江戸時代から同じ手法。まず、台金(だいがね)という金属製の土台から作り始めます。この台金を直接かぶるので、出演者の頭の形に合わせて、木槌などでていねいに丸みをつけていきます。台金ができたら、今度はそれに細かい目の網をかぶせます。そして、その網に一本一本髪の毛を通していくのです。日本舞踊で使うかつらは、ヤク(体毛の長いウシ科の動物)や馬の毛なども使いますが、ほとんどが本物の人毛。ですから、実際に生えているのと同じ密度で植えていかなければ本物らしく見えません。考えただけで気が遠くなりそうな作業ですね。ほかに蓑(みの)というパーツを使って毛量を増やす方法もあります。

 衣裳と髪型の組み合わせが決まりごとになっている古典舞踊と違い、新作舞踊劇のかつらは衣裳とどうバランスをとっていくかをいつも考えながら作らなければなりません。「でも、それが作る楽しさでもある」とか。出来上がったかつらは稽古場にもっていき、家元や朝倉さんの最終チェックを受けてようやく完成。本番中は床山部屋で、出演者にかつらをかぶせたり、くずれた髪型を直したり、幕が開いても大忙しです。

<<髪の毛は、台付けにかぶせた網に一本一本針で通していきます。
稽古に必要な「頭(かしら)」は早めに仕上げて稽古場へ。出演者にかぶり方を教えます。>>
<<一人前のかつら師になるには、最低10年はかかるそうです。
●『泉の姫』のかつらウラ話
 泉の王や水の精の男たちがかぶっている青い髪のかつらは、ヤクの毛で作られています。ちなみに家元が扮する泉の王のかつらは、一人のかつら師が十日間寝ないで作るくらいの期間をかけて完成したのだとか。かつら作りがいかに根気のいる作業であるかがわかります。
◆かつらひと口メモ
床山(とこやま)...かつら師が作ったかつらの髪を結ったり、かつらをかぶせる職人のこと。

いわばかつらのスタイリストです。かつらを作るかつら師とは本来別の役割ですが、『名古屋をど

り』ではかつら師が床山も兼ねています。

羽二重(はぶたえ)...かつらをかぶるとき、髪をまとめるのに使う布のことです。

毛髪を一本一本植えこんだ生え際用のかつらのことも羽二重といいます。

蓑(みの)...昔の雨具の蓑に似ているところからこの名前になったのでしょう。正確には

「蓑毛(みのげ)」。「台金」に毛を張り合わせるために、特殊な結び方で糸に毛を結びつけたも

のをいいます。

頭(かしら)...『連獅子』や『鏡獅子』などで有名な髪の長いかつら。別名「振り毛」

いいます。『泉の姫』の終盤で水の精たちが「頭」をかぶって乱れ舞うシーンは壮観です。


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